とある一日
2006年7月30日 その日、私は塾がある日だった。
問題の解説の途中、先生はある1人の生徒にこう問うた。
「不定方程式の定義を教えてください」
数学が苦手な人の為に言っておくが、この手の問いは瞬時に答えなければならない。
――が、彼は答えられなかった。情けないとは思わないかね市川君。(私信)
「これ覚えなさいって、君に何度も言ったよね?」
「――――」
「やる気無いなら帰れよ」
「っ―――」
「ねぇ、君は何で勉強してるの?」
「――――」
「答えろ!」
うーん、実に容赦無いお言葉。何を言っても黙っている彼(市川君)に先生のフジヤマはヴォルケイノすんぜんだっ!
やむなく先生は次の生徒に標的を変えた。
「ではハイサ君。(仮名)」
「えっと、解が無限にある方程式のことを」
「ぜんっぜん違う!」
いま、「えっ違うの?」と思った人は数学要注意だ。ちなみに俺は要注意だ。
そうして先生の怒りが爆発する直前、その事件は起こった。
「すみませ〜ん、これこれこうゆう者と申しますけれどぉ〜」
途端、先生のこめかみに青筋が走ったのが見えた。というか聞こえた。「ビキッ」ってな。
分かりやすく説明すると、まずこの塾には扉が一つしかない。その扉は外界と塾内部とを隔てているだけ。つまり塾内部では大抵の喋り声が筒抜けという訳だ。と言っても教室は一つしかないので、授業中誰かに迷惑が掛かるという事は無い。要は経費削減。
次にこの塾では授業のDVDを作成している。授業中は常にカメラが回っているのだ。先程の(楽しい)やりとりも全て録画されている。無論そういったモノは編集で全てカットするのだが。
ここまで言えば分かるだろう。何らかの営業の人がこの塾を訪問し、扉を開け、あまつさえデカイ声で叫んだのである。その声は無論カメラに収められる。そしてこれまた無論、その部分を編集でカットする手間が増えたわけで――先生はキレたのである。編集するのは自分だから。可哀想に。
「――皆さん、少し待っていてください」
先生は大股で教室を飛び出し扉へと向かった。私は直感した。「これはネタになる」と。あの先生は例え赤の他人であろうと容赦はしない。全力を持って叩き潰すその様は一種の感動すら覚える。私は一言一句とて聞き漏らすまいと、ペンを握り締めメモの用意を完了した。
「すいませ〜ん、居ないんですかぁ?」
「仕事中だ」
「あの〜、実はですね」
「仕事中だって言ってんだろ。馬鹿じゃねえのか?」
「え、あの・・・」
「帰れ」
絶対拒否障壁とでも呼べば良いのか。それが先生のエタニースペシャル。誰も分からないネタですみません。
中々帰らないその人に対して、さらに先生は追い討ちをかける。
「帰れと言ったのが聞こえなかったのか? 大体何で勝手に入ってきてんだ」
「ノ、ノックはしましたよ」
「俺が『入っていい』って言ったか?」
「――――」
「どうして勝手に入ってきた!?」
「呼び・・」
「あん?」
「呼び鈴が無かったのでノックをしたんです。けど、返事も無かったし・・・それに、鍵も開いていたから」
「じゃあお前は普通の家に呼び鈴が無いからノックをし、それで返事が無くて鍵も開いていたらお前はその家に勝手に入るわけだな?」
「――――」
「答えろ!」
絶好調。その一言に尽きるだろう。しかし、相手の人も中々粘るな。粘っても無意味なのに。
HP残り僅かの相手に対し先生はここぞとばかりに怒涛のラッシュをかける。
「身分証見せろ」
「な、何で?」
「勝手に入られたから。不法侵入だぞ? 分かってるのかお前」
「くっ・・・」
「ほらさっさと出せよ」
そこで一度会話が途切れた。ここからでは先生達の姿は見えない。一体何が起こっているのか―――
ビリッ!
紙が破ける音。その音は教室まで響き渡った。続いて先生の、冷たい、声。
「帰れ」
その全身が凍りつくような声に臆したか、相手の人は一言「すみませんでした」とだけ言い残し、塾を去った。
・・・先生が戻ってきた。先生は開口一番、
「皆さんも、マナーは守れる大人になってくださいね。さっきの営業の人間なんて名刺破かなきゃ帰ってくれませんでしたよ」
とだけ言い、すぐに授業に移ってしまった。
・・・先生はマナー以前に、品性をもう少し付けた方が良いと思います。
問題の解説の途中、先生はある1人の生徒にこう問うた。
「不定方程式の定義を教えてください」
数学が苦手な人の為に言っておくが、この手の問いは瞬時に答えなければならない。
――が、彼は答えられなかった。情けないとは思わないかね市川君。(私信)
「これ覚えなさいって、君に何度も言ったよね?」
「――――」
「やる気無いなら帰れよ」
「っ―――」
「ねぇ、君は何で勉強してるの?」
「――――」
「答えろ!」
うーん、実に容赦無いお言葉。何を言っても黙っている彼(市川君)に先生のフジヤマはヴォルケイノすんぜんだっ!
やむなく先生は次の生徒に標的を変えた。
「ではハイサ君。(仮名)」
「えっと、解が無限にある方程式のことを」
「ぜんっぜん違う!」
いま、「えっ違うの?」と思った人は数学要注意だ。ちなみに俺は要注意だ。
そうして先生の怒りが爆発する直前、その事件は起こった。
「すみませ〜ん、これこれこうゆう者と申しますけれどぉ〜」
途端、先生のこめかみに青筋が走ったのが見えた。というか聞こえた。「ビキッ」ってな。
分かりやすく説明すると、まずこの塾には扉が一つしかない。その扉は外界と塾内部とを隔てているだけ。つまり塾内部では大抵の喋り声が筒抜けという訳だ。と言っても教室は一つしかないので、授業中誰かに迷惑が掛かるという事は無い。要は経費削減。
次にこの塾では授業のDVDを作成している。授業中は常にカメラが回っているのだ。先程の(楽しい)やりとりも全て録画されている。無論そういったモノは編集で全てカットするのだが。
ここまで言えば分かるだろう。何らかの営業の人がこの塾を訪問し、扉を開け、あまつさえデカイ声で叫んだのである。その声は無論カメラに収められる。そしてこれまた無論、その部分を編集でカットする手間が増えたわけで――先生はキレたのである。編集するのは自分だから。可哀想に。
「――皆さん、少し待っていてください」
先生は大股で教室を飛び出し扉へと向かった。私は直感した。「これはネタになる」と。あの先生は例え赤の他人であろうと容赦はしない。全力を持って叩き潰すその様は一種の感動すら覚える。私は一言一句とて聞き漏らすまいと、ペンを握り締めメモの用意を完了した。
「すいませ〜ん、居ないんですかぁ?」
「仕事中だ」
「あの〜、実はですね」
「仕事中だって言ってんだろ。馬鹿じゃねえのか?」
「え、あの・・・」
「帰れ」
絶対拒否障壁とでも呼べば良いのか。それが先生のエタニースペシャル。誰も分からないネタですみません。
中々帰らないその人に対して、さらに先生は追い討ちをかける。
「帰れと言ったのが聞こえなかったのか? 大体何で勝手に入ってきてんだ」
「ノ、ノックはしましたよ」
「俺が『入っていい』って言ったか?」
「――――」
「どうして勝手に入ってきた!?」
「呼び・・」
「あん?」
「呼び鈴が無かったのでノックをしたんです。けど、返事も無かったし・・・それに、鍵も開いていたから」
「じゃあお前は普通の家に呼び鈴が無いからノックをし、それで返事が無くて鍵も開いていたらお前はその家に勝手に入るわけだな?」
「――――」
「答えろ!」
絶好調。その一言に尽きるだろう。しかし、相手の人も中々粘るな。粘っても無意味なのに。
HP残り僅かの相手に対し先生はここぞとばかりに怒涛のラッシュをかける。
「身分証見せろ」
「な、何で?」
「勝手に入られたから。不法侵入だぞ? 分かってるのかお前」
「くっ・・・」
「ほらさっさと出せよ」
そこで一度会話が途切れた。ここからでは先生達の姿は見えない。一体何が起こっているのか―――
ビリッ!
紙が破ける音。その音は教室まで響き渡った。続いて先生の、冷たい、声。
「帰れ」
その全身が凍りつくような声に臆したか、相手の人は一言「すみませんでした」とだけ言い残し、塾を去った。
・・・先生が戻ってきた。先生は開口一番、
「皆さんも、マナーは守れる大人になってくださいね。さっきの営業の人間なんて名刺破かなきゃ帰ってくれませんでしたよ」
とだけ言い、すぐに授業に移ってしまった。
・・・先生はマナー以前に、品性をもう少し付けた方が良いと思います。
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